音で聴く「パッヘルベルのカノン」徹底解説
カノンのメロディを支えているコード進行、それがこんなにも魅惑を秘めているのは何故でしょうか
。
4.「パッヘルベルのカノン」コード進行が秘めているもの
「カノン」コード進行の法則性
曲の最初から最後まで繰り返し流れ続ける8つのコードの流れを詳しく見ていきましょう。
ベース音は、こうでした。

通奏低音(チェロ)
ド ソ ラ ミ ファ ド ファ ソ
よく見るとここにも法則性があります。
楽譜を見ると、最後2つ以外は、おたまじゃくしの黒丸が、下がっては上がってと、同じような形を作っています。全く同じ形のギザギサを描きながら、全体として右下がりに降りていきます。
主音のドから始まって、4度下のソ、2度上のラ、4度下のミ、2度上のファ、4度下のド、ここまでてドからドまでちょうど1オクターブ降りました。
単に、4度下降、2度上昇を.3回繰り返しただけです。完全に規則的な動きです。
6つの音を鳴らして、ちょうどドに戻りましたが、ここで終わっては半端です。
2小節にするには、あと2つの音が必要です。しかも、2小節サイクルを作って繰り返すためには、あと2つの音を鳴らしたあと、次のサイクルの最初のドにつなげなくてはなりません。このつながりは、曲が終わるときと同じです。曲の終わり方にも古来様々なことが言われていますが、ファ・ソと行ってドにつなげると、とても充実感を持って曲がまとめられるという、セオリーがあります。ここはそのセオリー通りになっています。
まとめると、この8拍のベース音は、ドから始まって、4度下降、2度上昇を繰り返して、3回りでちょうどドに戻ったところで、終止の基本どおりにファ、ソで次のドにつなげる、という作りです。
これに和音を付けると、こうなります。

「パッヘルベルのカノン」コード基本形
これが最も基本的な形。ベース音を1番下にして、きれいにおたまじゃくしが3段重ねになっています。
これを、ポップミュージック式のコードネームで表現すると
C−G−Am−Em−F−C−F−G
の流れになります。
mはマイナーと読みます。
何故3つめと4つめにだけこのmがついているかというと、和音の作りがここだけ他と違っているからです。
コードの基本
楽譜では全く同じように見えますが、鍵盤で見ると違いがはっきりします。
右へ行くほど音が高くなりますが、白鍵・黒鍵区別なく、ひとつ右へ行くごとに、同じ間隔で高くなります。
間に黒鍵をはさんでいないミとファは、黒鍵をはさんでいるドとレの間より、音の間隔が狭いのです。
隣り同士の間隔を「半音」と言い、ドとレのような間隔を「全音」と言います。
Cのコードは「ドミソ」を一緒に鳴らします。
ドとミの間に半音3つ、ミとソの間に半音2つはさんでいます。
Fは「ファ」から、Gは「ソ」から、これと同じ間隔で音を積み上げています。
Emのコードは「ミソシ」を一緒に鳴らします。
ミとソの間に半音2つ、ソとシの間に半音3つはさんでいます。
「マイナー」コードは、基礎になる音から、これと同じ間隔で音を重ねています。
Cは「Cメジャー」を略したものです。メジャーには「長調」の意味もあります。
「マイナー」は「短調」です。
アルファベットの元来の意味は、ドレミファソラシドの英名です
ド=c,レ=d,ミ=e,ファ=f,ソ=g,ラ=a,シ=b
ということです
ド=cの音に積み上げた「ドミソ」の和音はハ長調の曲の1番基本になる和音です。
その意味で、この和音はCメジャーと呼ばれます。
短調では、ラが基本の音になって、その上に積み重ねた「ラドミ」が基本の和音です。
この和音がAm(Aマイナー=「イ短調」の意味も持つ)です。
その和音に、長調、短調の性格がはっきり表れています。
マイナーコードは、真ん中の音がメジャーコードより半音低い、違いはそれだけです。
基本の音を合わせて、聞き比べてみます。

CとCm
ドを基本の音にしたメジャーコード(C)とマイナーコード(Cm)です。
おおざっぱに言ってしまうと、メジャーは明るく、マイナーは物悲しく響きます。
パッヘルベルのカノンは長調の曲です。
長調の曲にとって、基本の和音に次いで大事な和音が2つあります。
ソの上に重ねた和音「ソシレ」、
ファの上に重ねた和音「ファラド」です
音楽の授業では、
「ドミソ」=Iの和音、「ソシレ」=Vの和音、「ファラド」=IVの和音
などと習います。
「ドミソ」=トニック(主和音)、「ソシレ」=ドミナント(属和音)、「ファラド」=サブドミナント(下属和音)
とも言います。
実際に何のコードがこれに当たるかは、調によって変わります。
ハ長調では、トニック=C、ドミナント=G、サブドミナント=F、となります。
短調にもトニック、ドミナント、サブドミナントはありますが、マイナーコード主体になります。
「パッヘルベルのカノン」コード進行の多彩さ
ここまでコードについて知って頂いたところで、もう1度「パッヘルベルのカノン」のコード進行を見てみましょう。
本来はDがトニックの「二長調」ですが、ハ長調で書くと、
C−G−Am−Em−F−C−F−G
C−Gで、まずトニックからドミナントへ、基本中の基本の進行です。音楽の授業の最初にピアノで弾く、「起立・礼」の進行です。今日も明るく元気にがんばろう、と気合が入ります。「礼」から「気をつけ」の姿勢に戻るにはトニックに帰りますが、曲が進むためには、もっと違う和音に行きます。

C−G
「起立・礼(・戻る)」はこうです。
1番上にド−シ−ドを足して、このコード進行の特徴をより明確にしています。

C−G−C
次にAm−Emと進みますが、これは、「イ短調」のトニック−ドミナントと同じことになります。
はじめ2つの気分を正反対にしたような展開です。大変沈んだ雰囲気を描くこともできますが、前後との関係でそれほど深刻なものにはなっていません。

Am−Em
次にサブドミナントのFがやっとでてきます。そして、トニックのCが出てきてまたF、トニックとサブドミナントを行ったり来たりする進行は、とてもやわらかい、やさしい音楽になります。
楽譜が見やすいように、1オクターブ上の音にします。このように、構成音が同じなら、どの高さの音を使っても、コードは同じです。

F−C−F
そして、残るひとつが、Gです。前のFと、次の小節頭のCとの間で、長調の大事な和音を3つとも並べて、しっかりと音を安定させています。3つを並べてかつはっきりまとまりをつけるには、この並べ方しかありません。王道とも言えるサブドミナント−ドミナント−トニックの進行で、長調のエッセンスを見せつつ、くっきりと力強くまとめます。

F−G−C
つまり、4度下降、2度上昇の単純な繰り返しの中に、
トニックからドミナントへ進行する長調の輝かしい明るさ、
一時的に短調の基本進行になることで、憂いを含んだ表情
サブドミナント−トニックの優美さ
といった要素が、次々と現れ、
最後に長調の主要3和音を全部並べながら完全終止の形になることで、説得力のある力強い完結を感じることができるのです。
たった8つのコードで、移ろい行く感情が、みごとな起承転結を持って、描かれています。
全部を通して、ピアノの音で聴いてみましょう。

「パッヘルベルのカノン」コード基本形・ピアノで
C−G−Am−Em−F−C−F−G
これば、和音を全部基本形でつないだものですが、このままでは、ぎくしゃくしたつながり方になってしまいます。そこで、ベース音以外は、音が突然上がったり下がったりしないようにつなげると、スムーズな音の流れでつながります。その一例が、これです。

通奏低音(チェンバロ)
メロディのときと同様、ここでも、理屈通りに音を動かしていくことで、とても豊かな音楽性にたどりついています。
しかし、どんなによくできたコード進行でも、それは、単に可能性にすぎません。
「起承転結」という構成に基づいて作られた物語か゛必ず名作になるわけではないのと同じことです。
そこから描き出されるメロディやハーモニーが、リズムとも相まって、訴える力を持ったとき、名作になります。
次は、「パッヘルベルのカノン」自体からは離れて、コード進行を現代に生かすために、どのような工夫がされているかを見ましょう。