うつせみ 
1996年 2月25日
              蘭

 今年も東京ドームの「世界らん展日本大賞'96」(2/24-3/3)をワイフ と一緒に見てきた。世界25ヶ国から参加したドーム一杯の蘭は壮観である。 これが同じ蘭科かと思えるほど個性的で多種多様な花が、いわゆる百花け んを競う。永松睦彦氏は毎年最終日の午後行って花や苗の叩き売りを安く 買って来られるそうだが、その頃になると会期直前の審査に合わせて開花 させた花が「遺影」になってしまうので、私達はいつも早目に行く。いつ もは朝開場前に並んで入場するのだが、今回は日曜日に朝寝坊してしまい、 10時過ぎに入ったので既に満員電車並の混雑であった。それでも2pm頃帰 る時に見ると、ドームの宿命である回転ドア渋滞で100mほど入場者の列が 出来ていたから、やはり午前中に限る。

 東洋蘭の可憐な姿もよいが、私はカトレアの華麗な容姿に惹かれる。そ う言えば渋谷に昔カトレアという喫茶店があって、華麗な彼女とデートし たっけ。俳句では蘭は秋の季語である。東洋蘭の多くがひっそりと秋に咲 くからだが、洋蘭がはびこってからはこの季語は使い辛くなってしまった。

 高校の生物で習った覚えがあるが、植物で一番進化した被子植物の2つ の枝の、芽の葉が1枚の単子植物では蘭が、双葉を出す双子植物では桜が、 それぞれ進化の頂点にあるそうだ。高尚な人間が愛でるにふさわしい。蘭 科には750属35,000種もあるとのこと。熱帯から寒帯まで分布し、土に生 える地生から、植物や岩に生えて空中から養分を摂取する着生、また腐食 物に付く腐生まで、千差万別である。英語では18世紀初めにBahamaから英 国に入ってきたいわゆる洋蘭の園芸種をOrchid[英o:kid/米orkid]という が、英国原産の野生のものはなぜかOrchis[o:kis]と呼ぶ。

 蘭の特徴は、花弁3枚を裏から飾る萼(がく)3枚が花弁と同じ色に進 化して、合計6弁のように見えることである。花弁の一つが中央で蜜を守 るため5弁の花に見えるものもある。これら6弁があるいは丸く、あるい は糸のように細く、小は直径数ミリから大は20cmほどにもなり、白、赤、 黄、紫、緑、などあらゆる色とその組み合わせで容姿を誇る。人間が競っ て交配種を作ったせいもあるが、元々は交配してくれる特定の昆虫に適応 して進化し多様化したそうである。

 最も艶やかなのはカトレアCattleyaであろう。今回はCattleyaが強調さ れた年であった。展示も多かったし、ドーム一杯の蘭の頂点に立つ日本大 賞は大柄の赤ワイン色のカトレアであった。Cattleyaの語源も面白い。 Brasilの苔などを頼んで送って貰った英国の植物愛好者Cattley氏が、詰 め物に使われていた分厚い葉を栽培してみたら、見たこともない美しい花 が1824年に咲き、新種と判明してCattleyaと名付けたという。

 昨年も一昨年も日本大賞はPaphiopedilumという種類であった。但し一 昨年は既に「遺影」になっていて見てはいない。Paphiopedilumは(自宅 のラテン語の辞書が目下行方不明で確認できないが多分)Lady's Slipper という意味である。少なくとも英語ではそう呼ぶ。中央の壺状の花弁が特 徴で、それが貴婦人のスリッパに見えるからである。

 Ladyついでに言えば、Dancing Ladyという私が好きな蘭がある。真黄色 の2-3cmの花が無数に咲いて華やかなので、最近は生け花のわき役に多用 される。中央花弁がスカートのように下に大きく広がり、3枚の萼がLady の顔と水平に広げた両手になっている。"Shall we dance ?"というメロデ ィーが口をついて出る。Singaporeに初めて行った時にこの花を知り、こ の花を金メッキしたペンダントやネクタイピンを買って以来はまってしま い、或る展示会で入手して家でも咲かせている。正式名はOncidiumといい、 多数の花が群れる様からButterfly Orchidの名もある。

 日本で最も一般的なのは稲のような葉が多数出るCymbidiumで、わが家 にも10鉢ほどある。ヒマラヤ原産だけに寒さに強く、八王子の気候にも馴 染んでよく咲く。ちなみに東洋蘭は全てCymbidiumの仲間である。日本原 産の蘭は「えびね」で、野山にも可憐な花を見ることができる。

 今年は純白の中に赤紫の中央花弁の花が咲くはずのCattleyaの苗をお土 産に買った。二人の思い出にふさわしい花が咲くとよいのだが。 以上