「余白」という題名の小冊子を今までに2冊自費出版して親しい人に配布した。いずれも会
社で毎週書いている週間業務報告の余白に記した俳句をまとめたものである。俳句は日頃季節
を感じるままに我流で書きつけたものであるが、それを業務報告の一部に関連づけて比喩の妙
を狙っている。俳句そのもの、俳句の背景、俳句を比喩に用いた業務報告事項をまとめた第1
冊の「余白」には1983年から1989年までが収録されている。以降東芝を去って東芝情報シス
テムに移った1993年までの俳句をまとめようとして、小冊子とはいえ適当な頁数にするには句
数が不足であることに気付き、日英併記として分量を倍増し「Yohaku」とした。
3年間面白く過ごさせて頂いた東芝情報システムを今回また去るに当たり3冊目の出版を志
したが、再び句数不足の問題を抱えた。同じことを2度やるのは性分に合わないし、英語以外
は本にするほどの自信は無いし、悩んでいるうちにふと気付いたのがこのようなHTML形式によ
る電子出版である。これなら頁数に悩む必要もなく第一安上がりである。「コンピュータの」
という意味に使われる「サイバー」を付けて今度は「サイバー余白」という表題とした。
俳句は自然との接点で生まれる。自然はどこにでもあるが、私が一番自然に接するのは八ケ
岳山麓である。皆がゴルフ会員権に走った頃、自分はコンペ以外はゴルフをやりそうもないと
思った私は代わりに八ケ岳の諏訪側の中腹標高1,400 mの八ヶ岳三井の森に山地を買い1986年
に小さな「あやめ小屋」を建て、以来毎年平均数十日は高山植物が豊富なこの土地で過ごして
いる。近くには蓼科三井の森もあって竜神池周辺をよく散歩する。またここを拠点に長野県一
帯に足をのばしている。
次に自然に接することが多いのは自宅周辺である。自宅は八王子の野猿峠の峰続きにあり、
通勤には遠いが緑に恵まれた地区である。
川崎の通勤路で季節を見ることも多い。駅から会社まで3つの道があり、変化を求めて気分
で使い分けている。社員の定番は日航ホテルを左に折れて京浜急行の高架沿いにケヤキ並木の
四季の下を歩く道である。西武と丸井の間を入りIBMを抜けて団地の中庭から行く道もある。
私が好きなのは、日航ホテルを右に折れた先の線路沿いに通じている一見煉瓦畳風の公園道で
ある。わずか百米ほどのサクラとツツジの道だが、モクレンが2本、アンズが1本、ウメが2
本というように植物園のように数十種類の植物がそれぞれ数本とか1株ずつとかあるので、季
節の移り変わりを楽しむことができる。この公園道で見つけた季節の句が多いことに自分でも
驚いた次第である。
今回も従前の2冊と同様に、俳句そのものと、俳句をつくった情景と、その俳句が連想され
た業務報告上の出来事を記載する。一番難しいのは、会社の機密を漏洩し会社に不利益を与え
たと言われることである。しかし幸いなことに年月の経過によって当時の機密が今では機密で
なくなった点も多いし、そうでない場合でも差し支えない範囲で表現することには最も意を用
いた。
「次の余白はいつ頃出ますか?」と時々尋ねて下さる皆さんにこの「サイバー余白」をご提
示できて幸甚である。また読んで頂ける方々の些かでもお楽しみとご参考になれば私の最も幸
せとする所である。
1996年 9月 松下 重悳