6月13日に開催された、今年3回目の研究会の報告結果は、以下のとおりです。
テーマ 「NATO拡大をめぐる国際政治」
報告
「NATO東方拡大と北欧諸国 −バルト諸国安全保障プログラムをめぐる交渉過程を中心に」
湯浅剛 (上智大学大学院)
討論者
広瀬佳一 (防衛大学校)
志摩園子 (東京成徳大学)
司会
細谷雄一 (慶應義塾大学大学院、院生研究会責任者)
日時 6月13日土曜日 3:00ー5:00
場所 JR田町駅及び、都営地下鉄(浅草線・三田線)三田駅、徒歩約10分
慶應義塾大学三田校舎大学院棟5階 352番教室
今回の報告では、冷戦後のヨーロッパにおいて極めて重要な転換点であるNATO東方拡大の過程で、北欧諸国がどのような対応を示したのかを中心に論じた。これは、冷戦後ヨーロッパの新しい安全保障枠組みを考える上で、また下位地域協力としての環バルト海の国際政治を理解する上で、重要な報告でありまた、独創性ある視点であった。
まず最初に、北欧諸国の安全保障環境にとってのNATO拡大の意義を簡単に述べ、それから北欧の安全保障がどのように変わっていっているのかを論じた。そこで湯浅氏は、北欧の安全保障環境を考える上での「ロシアの存在」の重要性に注目する。そして、冷戦終焉とともに「ロシアブロック」が崩壊し、その波動は北欧諸国にも及んでいる点を指摘する。そのような安全保障環境の変容に対して、北欧諸国はどのような対応をしたのか。そして北欧諸国はどのように地域協力を行い、どのような地域安全保障を望んでいるのか。
この点に関して、湯浅氏は百瀬宏教授の「北欧均衡」という概念に注目し、北欧において冷戦後はこの勢力均衡が徐々に変化しつつある点を議論する。まず、「北欧均衡」の内的要因であった有効性が徐々に変化し、その意味についての北欧諸国間の認識が徐々に変化しつつある。そして、外的要因である環バルト海における大国間関係もまた、微妙な変化を見せている。しかしながら、湯浅氏は冷戦後においてこの北欧均衡は依然として有効である点を指摘する。条件が変化しつつも、そして北欧諸国間の温度差を見せながらも、依然としてこの均衡が続いている。ただし、NATO中心の協調的安全保障が、全欧的規模へと拡大する点に注目している。これこそが、北欧安全保障環境をめぐる、NATO東方拡大の意義である。
さて、この湯浅氏の報告に対して、まず広瀬佳一氏が、非常に鋭くかつ意義の深いコメントを加えた。広瀬助教授は、まず第一に、NATO拡大と北欧均衡という概念がどのように相互に関連しているのかを問い、この北欧均衡という概念に対してそれをそのまま冷戦後に妥当する概念として用いる方法に疑問を投げかけた。つまり、この「北欧均衡」があくまでも冷戦的コンテキストでこそ生きてくることを指摘した。
とりわけ広瀬氏は、ヨーロッパ安全保障を考える場合の、重層的な構造への注目の必要を論じる。そして、ヨーロッパ安全保障をめぐるアメリカとロシアの動向を無視することの限界を指摘する。NATO拡大に関しては、あくまでのロシアの対応と、アメリカの国内事情こそが、分析枠組みに欠かせない視点である。さらには、バルト三国がどの程度共同歩調を示しているのかにも疑問を投げかけた。
バルト三国、とりわけラトビア研究で日本の第一人者である志摩園子助教授は、バルト三国の協調の現実についての興味深いコメントを加えた。志摩助教授によれば、冷戦終焉の過程でバルト三国が独立を求めるために協調の姿勢を見せたのは事実であるが、他方で冷戦終焉後のバルト三国の協調は、極めて「形式的なもの」であったことを、現地の事情も鑑みて指摘している。これは下位地域協力の可能性と現実を考える上で、実に興味深い指摘であろう。また、バルト三国それぞれ、重要な相手国の優先順位が異なり、それによって安全保障構想もまた大きくことなる点に注目した。
志摩助教授の指摘によれば、環バルト海協力は、そもそも対ソ戦略的な文脈が強く、「米・バルト憲章」の場合は、対米戦略的な色彩が強いのである。従って、環バルト海協力を考えるときに、マクロ的にはロシアやアメリカの存在を無視する事はできず、またミクロ的には、各国の主張と認識の相違を考慮に入れる必要がある。
その後、数人の北欧専門家から鋭い指摘があり、議論はマクロ的、ミクロ的、両面で含蓄のある指摘がなされることになった。冷戦後ヨーロッパの国際政治を考える場合の複合的視点、そして地域研究における現地の認識への考慮など、実に学ぶことの多い研究会であった。
いつもどおり、三田界隈の居酒屋で、議論は色々な方面へと飛び火して、疲れも感じずに続いた。