| 12月11日に以下の通り、1999年第1回大学院生研究会を開催いたしました。 テーマは、「アメリカ外交は戦後東アジアでいかなる役割を果たしたか?」です。 基調報告及び討論 「『ヘゲモニーの逆説』について」 杉田米行助教授 (大阪外国語大学) 討論者 中島信吾 (慶應義塾大学大学院) 池田慎太郎 (筑波大学大学院) 今野茂充 (慶應義塾大学大学院) 司会 細谷雄一 (院生研究会責任者、慶應義塾大学大学院) 日時 1999年12月11日 土曜日 3:00-5:00 場所 慶應義塾大学三田キャンパス大学院校舎5階 353-A 教室 (正門から正面階段を昇り、中庭へ出て向かって左側の建物) JR田町駅及び都営地下鉄三田線・浅草線三田駅下車徒歩約10分 |
今回は、これまでの研究会のスタイルとは多少異なり、杉田米行先生の御著書、『ヘゲモニーの逆説 -アジア太平洋戦争と米国の東アジア政策、1941年-1952年』の書評研究会として、ゼミナール形式の自由な討論を行いました。 まず、基調報告として、著者、杉田米行会員は、「ヘゲモニーの逆説」としてアメリカ外交を再考する必要を説いた。冷戦が終わり、従来の冷戦史観を克服して、より全体的な世界システムを考察する必要があるだろう。冷戦は、世界システム一部であって、冷戦とはアメリカ社会内部から生成したという特色を持つ、心理的なものであった。 アメリカはそのような世界システムの中で、ヘゲモニー国家としての至高の力を行使した。ところが、ヘゲモニーの逆説として、アメリカはその力を用いれば用いるほど、自らの権力基盤を弱めるという歴史的皮肉か進行した。ここでは、対中対日政策の二つを扱うが、アメリカ政府はこの二つの政策領域では共通意識があった。即ち、"ins and outers"としての政策エリートがアメリカ外交を把握し、アジアに対する蔑視感をともない、アメリカの力をその地域に押しつけようとした。力を押しつけながら、自らの権力基盤を失ったアメリカにとって、戦後アメリカの対日・対中政策は、失敗であった。 このような、杉田会員の報告の後、三人の討論者から、それぞれ興味深い問題提起が為された。 まず、戦後日本政治外交史を専門とする中島信吾会員は、四つの疑問点を明示した。まず第一に、トルーマン政権からアイゼンハワー政権に続いて、このようなヘゲモニー国家としての力の行使をしたとするならば、それはいわゆるポール・ケネディの言う「帝国のoverstrech」の議論とどこが異なるかと言うことであった。そして第二には、米ソ関係に関する質問が提示され、第三には本書の議論がゲイル・ルンデシュタットの「招かれた大国」の議論とどのような関連性があるかが問われた。そして第四には、戦中のアメリカ対日占領政策に関して、五百頭旗真教授の画期的な研究成果とどのような点が異なるかが問われた。 次には、戦後日米関係史を専門とする、池田慎太郎会員から、二つの問題提起がなされた。まず第一には、方法論的な問題として、杉田会員の著書の主旨はいわゆる、アメリカ外交史におけるNew Leftの議論と重なるところがあるが、Diplomatic Hisotry誌で展開された、「左翼の衰退」という指摘に対して、どのように応答するかという点であった。そして第二点目として、個人的な関心と断りながら、吉田外交に対して、杉田会員が「ヘゲモニーの逆説」の議論の中で、どのような評価を下すかという問題であった。 最後に、アメリカ国際政治理論を専門とする今野茂充氏から、理論的な視野からの二つの問題提起が為された。第一点目としては、世界システム論におけるPower Transitionの問題が指摘された。つまり、世界システム論とは、基本的には長期的趨勢を理解するための理論枠組みであるのに対して、このような短期スパンでの詳細な外交史研究に応用可能かどうかとう問題であった。また、トマス・マコーミック・ウィスコンシン大学教授の議論との相違点が質問された。第二点目として、ヘゲモニー理論をここで用いる意味が問われた。ここではいくつかの問題点が見られ、第一にはアメリカ全納を当然視しているという点、第二には経済力を指標とした従来のヘゲモニー理論を、短期的な外交政策として議論する問題点、そして国内要因を過度に重視しているのではないか、という点が指摘された。 これらの数多くの問題点に対して、杉田会員から丁寧なコメントを頂いた。まず杉田会員は、今後この議論をアメリカ外交の後の時代に応用する予定がないことを明らかとし、長期的な流れとして「ヘゲモニーの逆説」を検証することが今後ないであろうことを断った。そして、吉田外交に関しては、杉田会員は、吉田外交をあまりに高く評価すべきではないと言う池田会員の意見に反して、むしろヘゲモニー国家につけ込んだ巧みな交渉者と捉えている。それ以外の細かい問題点に関しても、それぞれ的確な返答を頂いた。 以上のように、今回の研究会では、活発な議論が続き、参加していただいた方々からも次々と論争点を提示していただいた。戦後アメリカ外交の役割をとうといった、壮大な問題点にも関わらず、議論は大きく脱線することなく、充実した論争が続いた。たとえいくつかの欠点があったとしても、明確かつ論争的な議論を提示する魅力を確認した研究会であった。 |