心理学の和書




Title  なぜ美人ばかりが得をするのか
Auther 著)ナンシー・エトコフ
訳)木村 博江
Year  2000
Publisher  草思社
Contents 進化心理学的視点から、外見的魅力に人間が心ひかれ、”美しい”人々がもてはやされる仕組みを解明する。
Comments 邦題は少しキャッチー路線を狙いすぎてしまい何の本だかわかりにくくなってしまいましたが、原題は"Survival of the Prettiest:The Science of Beauty"。つまり進化における自然淘汰の原則である"Survival of the fittest"という表現と上手に韻を踏んでいます。つまり、まじめな進化心理学の本です。そもそも人間が美しいと感じる特徴は何なのか・・・それはきめ細かな肌やつやのよい髪といった健康状態を表す特徴であったり、男性の体格の良さは運動能力の高さを表す特徴であったり、女性の曲線美は妊娠可能性の高さを表す特徴であったりします。すなわち、繁殖においてパートナー選択の手がかりになる指標となっているものに敏感に反応して、われわれ人間は”美しい””美しくない”と判断を下していることになります。他の進化心理学の本でも議論されているテーマではありますが、外見的魅力というテーマでここまで網羅してある、さらに読みやすいという点で良書といえると思います。この本のなかで私がとくに面白いと感じたのは、7章のファッションのテーマ。ファッションというものは文化・時代・男女・地位に応じてとほうもないバリエーションに富んでいるので、進化心理学があてはめられるものなのだろうか?と一瞬疑問を抱きましたが、”着飾る”というのは世界各地の人類に共通する行為です。そこには、ファッションが時代とともに変遷するという現象も含めて進化心理学的に系統だてて解釈できる可能性があるという指摘には一理あると感じました。


Title  セイラー教授の行動経済学入門
Auther 著)リチャード・セイラー
訳)篠原 勝
Year  2007
Publisher  ダイヤモンド社
Contents 経済学的に“合理的”とされる判断・行動と、実際の人間がしめす経済活動は異なったパターンを示す。それが市場や社会にどのような影響を及ぼしているか、なぜそのような”非合理”を示すのかを心理学的に解明する。
Comments 実際の市場における消費者行動において、社会的ジレンマ・リスク回避・フレーミングなどの心理的バイアスがさまざまに影響を及ぼしていることを紹介してくれます。その現象が生じるメカニズムとしての心理プロセス自体は、比較的よく知られている話が多くさほど目新しい印象は受けませんでした。しかし、実例として挙げてある経済学的現象には「へぇ、そういうことも起きるのね」と関心させられるものが多く、目を丸くさせられました。オークションでの勝者の呪い、競馬の必勝法、明らかに損する金融商品のヒット、予測不能な株価?などなど・・・。「こうすれば儲かりますよ」という行動経済学からのアドバイスが多数紹介されており、なるほどと思わされる指摘にもいくつか出会うことができました。(私自身、ちょうど冷蔵庫を買い替えようとしていたところでしたので、この本で指摘されていた”経済学的に合理的な”冷蔵庫の選び方をさっそく参考にさせていただきました。さらに、ギャンブルには全く興味のない私なのですが、競馬に関する章を読んだときには「一度くらい競馬やってみようかしら」と一瞬心動かされたほどです。笑。実際にはまだトライしていませんが。)経済学に疎い私にとってはすこしとっつきにくいところもあったのですが、おそらく経済に意識のあるビジネスマンの方々にとっては、この本のような経済活動の心理的謎解き&アドバイスは興味をそそるものがあるのではないでしょうか。


Title  EQ:こころの知能指数
Auther 著)ダニエル・ゴールマン
訳)土屋京子
Year  1998
Publisher  講談社+α文庫
Contents 従来の知能指数IQでは測れない「こころの知能指数」EQが、人生のさまざまな側面での成功と幸福に多大な影響を与えていることを説く。そしてEQはトレーニングによって向上できることを紹介する。
Comments 多くの心理学研究者は世の中でいうところの「心理学」が苦手です・・・マスコミなどでもてはやされる”サイコロジー”やら”心理テスト”やら”能力開発”といったものは根拠が見えないものが多く、どうも胡散臭く感じられてしまって。私もご多分にもれずその手の世間で「心理学」ともてはやされるものは食わず嫌い的に敬遠してしまうところがあります。じつはEQという考え方も、私が食わず嫌いをしていたもののひとつです。90年代終盤ころに爆発的に流行しましたが、あまりに流行りすぎたために「胡散臭い」というレッテルをひそかに貼ってしまい、ほとんど興味を抱かずに来てしまいました。
しかし、最近とあるきっかけがあって、EQというものも学んでみようと勉強をしはじめたのです。この「EQ:こころの知能指数」は流行の大もとになった一冊だそうなので、まずはここからおさえることに。 一般向けの書籍なので、予備知識の少ない人にもわかりやすくするためにあまり理論的なことや研究データには深入りしません。ですから理論的にゆるいなと感じる点は多々あるとは言え、想定していた以上に基本的な学術研究はおさえてあるのだなという好印象を持ちました。私も授業で取り上げることのあるルドゥー、ミシェル、ダマシオ、エクマン、ゴットマンなどの著名な研究者の知見も盛り込まれています。これらの情動の機能やその学習、そしてパーソナリティなどに関する知見をまとめ、「EQ」という名のもとに情動の重要性を説いた本というのがしっくりくる表現かと思います。逆に言うと、EQという概念および理論そのものにはそれほどオリジナリティを感じず、目新しさはないのかもと思いました。
とはいえ、@学術的知見をわかりやすくまとめて世間一般に広く知ってもらう→A有効利用してもらおうという試みは大いに評価すべきです。その点でこの「EQ」はかなり成功した一例ではないでしょうか。まず@の「世間一般に広める」という点では、「いわゆる頭の賢さ=IQだけではダメ。こころの賢さ=EQって大事だよね」という意識は現在かなり共有されているように思います。もともとそのような意識は暗黙のうちに広く存在していたと思いますので、「そうそう、それが言いたかったんだよ!」という思いで受け止めた人は多かったはずです。ただしAの「有効利用してもらう」という点についてはまだ開発段階といったほうがいいでしょう。少なくともこの1冊が書かれた時点(1995年原著初版)では「いかにしてEQを伸ばすか」という点では、各領域の著名な学術研究のよせあつめと、事例の紹介程度です。システマティックにEQ教育と呼べるものはまだ存在しないのでは・・・。領域特定的であれば、たとえばリーダーシップにおけるEQのスキルアップ法などは研究が蓄積されつつあるようです。(興味のある方は下記「EQを鍛える」の私のレビューをご参照ください)


Title  EQを鍛える
Auther 編訳)DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部 Year  2005
Publisher  ダイヤモンド社
Contents 「心の知能指数」EQとリーダーシップの関連を解説。
Comments リーダーの有能さおよびチームの業績を既定している要因の大きな部分を占めているのが、EQ。このEQは生得的(生まれつき決まっているもの)ではなく、自分自身で意識しトレーニングを積むことによって高めることができ、より良いリーダーシップを発揮できるようになることがポイントです。実際日々の生活の中でどのようにトレーニングを実践することができるのかも指南してくれます。内容構成としては、ハーバード・ビジネス・レビューに掲載された論文を8編まとめたものですが、論文とはいっても理論やデータは控えめになっており、むしろ実践法や実話(おもに米国企業でのリーダーの実例)が中心になっており、わかりやすく解説されています。さらに各章が読み切りになっていますから、さまざまな視座からEQとリーダーシップの関係を学ぶためにはお手頃です。そもそもEQって何?という人や、リーダーシップ初学者さんにとっても、簡単に読めて馴染みやすい一冊だと思います。


Title  感情と心理学
  発達・生理・認知・社会・臨床の接点と新展開
Auther 編著)高橋雅延・谷口高士 Year  2002
Publisher  北大路書房
Contents 発達心理学、認知心理学、生理心理学、社会心理学、臨床心理学の各分野における感情研究の現状と今後の方向性について。
Comments  この本を手にとったら、まずは著者リストをごらんあれ。豪華です。これだけの人々が集まってひとつの本を作ったのですから、内容もしっかりしていて読み応えがあります。近年の研究動向のレビューということで、取り上げてある内容は有名な研究が多く、特に目新しい主張はあまり無いのですが、以下の2点において優れた本だと思います。@各分野において感情の扱い方がどのように異なっているかが、特にわかりやすかった。概念的・手続き的な面の双方において、各分野の特徴がきちんと説明されている。A実証研究のかなり詳細な手続きまで紹介してくれている。
これから感情研究に取り組んでみたいという方、または、自分の専門分野以外の視点から感情というものを見直してみたいという方にオススメ。


Title  心とことばの起源を探る
  文化と認知
Auther 著)マイケル・トマセロ
訳)大堀壽夫ら
Year  2006
Publisher  勁草書房
Contents 霊長類には無い、人間に特有の認知とは。それはいかにして進 化してきたのか、そして個体発生的にいかに獲得されるのか。
Comments  ヒトと霊長類の認知システムは、かなり似通っています。で は、ヒトをヒトたらしめているものは何なのでしょうか。
著者は、「ヒトの認知を特徴づけるのは共同注意である」と力説します。これだけでは、あまり目新し い主張ではありません。しかし、進化的視点や発達的視点といった様々な側面から 、ひとつの理論について緻密に議論をまとめあげていくところが、とても読み応えがあります。「人類 は進化の過程で、他者を自己と同じく意図と心理状態をもった存在として理解するようになった。さらに、ヒトの子どもは社会的・歴史的に構築された文化の中で成長し、そ の社会で蓄積されてきた知識・スキルを獲得し、さらに認知的枠組みを言語記号の形で学習し、さらに 会話の相互作用からメタ認知や対話的志向を身につける」というのが理論の概略です。言語にかなり重 点を置いている印象を受けますが、進化的観点とかみ合わせながら理論全体に整合性をもたせることに 成功しており、無理のない議論展開になっていると感じました。非常に面白かったです。


Title  証言の心理学
 記憶を信じる、記憶を疑う
Auther  高木光太郎 Year  2006
Publisher  中公新書
Contents  偽記憶が生じるメカニズムと、その脆い記憶をいかにときほぐして真実に近づいていくかという試み。
Comments 人の記憶はとても脆く、さまざまな要因の影響をうけて、いかようにでも変容してしまう。周囲の人や本人にその意図がなかったとしても、記憶は刻々と書き換えられていってしまうのです。それを実験的に検証したロフタスの功績は有名ですが、本書の面白いところは、日本でのユニークな取り組みの紹介です。ロフタスらの研究は「いかに記憶が歪みやすいか」を実証したわけですが、そこからさらに一歩進んで、「では歪んでしまったかもしれない記憶から、過去の真実について何かわかることを拾い出していこう」という積極的な取り組みが、日本の研究者によってなされているのです。浜田寿美男の「供述分析」と、著者の取り組みである「スキーマ・アプローチ」が紹介されていて、非常に興味深く読みました。ここでは詳しく述べませんが、そのアプローチにいたるまでの試行錯誤などからも学ぶところが多く、予想をはるかに超えて読み応えのある一冊でした。


Title  顔は口ほどに嘘をつく
Auther 著)ポール・エクマン
訳)菅 靖彦
Year  2006
Publisher  河出書房新社
Contents 感情とその表情表出の関係や、表情から感情を読みとる方法、自分や他者の感情への対処法などを、さまざま種類の感情を取り上げて解説する。
Comments  原書は"Emotion Revealed" (2003)。Ekmanの表情記述法(FACS: Facial Action Coding System)がGladwell著 "blink"に取り上げられていたのを読んで、そのすさまじいほどに徹底的な細分化と実用性の高さに驚嘆(いや、本当に)していたので、ぜひもっと詳しく知りたいと願っていました。良いタイミングで訳本が出たのですぐさま手に取りました。ただしこの本自体は一般向けなのでFACSの詳細には触れません。むしろ、FACSの開発に活かされたであろう知見をわかりやすく紹介し、日常生活でどのように利用することができるかを紹介しています。具体的に悲しみ・怒り・恐怖・嫌悪・楽しみなど各種の感情をとりあげ、それぞれの感情がどのようなときに感じられるのか、いかに自らの感情をコントロールするか、相手の感情を読みとるにはどうしたらよいか、読みとった相手の感情に対してどのように対処すればよいかなどについて、写真や実例を挙げながら解説しています。つまりは実用書なので、学術目的で読むと少々ものたりなさを感じます。余談ですが、著者はかなり真摯な研究者であり、かつ、とても家庭想いな人であることが伝わってくるような筆致でした。エクマンといえば「ああ、表情研究の。未開地で文化比較した人ね」という程度しか知らなかったのですが、この本から感じ取った人柄と真面目さのおかげでかなり好感度アップしました。さらに、この本を読んだ後、電車の中などで人の顔をよく観察することがさらに楽しくなったのも事実です。


Title  脳のなかの倫理
 脳倫理学序説
Auther 著)マイケル・S・ガザニガ
訳)梶山あゆみ
Year  2006
Publisher  紀伊國屋書店
Contents 脳倫理学(neuroethics)=人間の脳を治療することや、脳を強化することの是非を論ずる哲学の一分野。
脳神経学者の著者が現代の重要問題をとりあげて持論を語る。
Comments 中絶問題の中心的議題”胚はいつから人になるのか?”、脳にはたらきかける薬物投与に関して”脳に手を加えることで知能や運動能力を増強することは許されるか?”、司法にもかかわる”脳障害者が犯罪をおかしても責任を問えない?”などの諸問題が取り上げられています。著者の基本的スタンスは、「人類に貢献する効能が明らかであり、社会に不利益や不平等をもたらさないのであれば、積極的に新しい技術をとりいれるべきだ。」という考え方です。ただし、あくまでこれは彼の個人的意見とその根拠を述べる本です。私自身が彼の洞察に感心する部分もあれば、共感できない部分ももちろんあります。ただし、倫理というかなり主観的問題に切り込んでいくときに、いかにして科学的知見の後ろ盾を構成していくかという点で、非常にスマートな態度を打ち出していることは評価に値すると思います。危険性をあげつらって過剰に保守的になるよりも、得られる利益の推定と、人間がその危険を冒す可能性のバランスを見積もりながら、どこまでが倫理的に許され許されないのかを見極めていく。あからさまには語られませんが、著者が人間というものに抱いている信頼と”愛”を感じさせる本でした。


Title  心を名づけること
 心理学の社会的構成
Auther 著)カート・ダンジガー
監訳)河野哲也
Year  2005
Publisher  勁草書房
Contents 心理学的な用語は、いったい何を表しているのか。心理学で扱われる概念やカテゴリーについて、「社会的に構成されたもの」として歴史的視点から解釈する。
Comments 心理学で頻出する用語である「知能」「パーソナリティ」「動機づけ」「態度」といったものは、実際に存在する実体なのだろうか?それらの用語は、実際の人間心理において意味のあるカテゴリーとして存在しているものを、的確に表現できているのだろうか?本書の答えは「否」。心理学用語が、歴史の流れのなかでその時々の研究トレンドや社会・政治情勢に相応してどのような変遷をとげてきたかを追うことによって、それらが社会的に構築される過程を明らかにしていきます。すでに意味あるカテゴリーを表すものとして用語がつくられるのではなく、用語がつくられることによって意味のあるカテゴリーとして初めて認識され研究対象として扱われるようになる。ベーシックとも言えることですが、この認識をしっかり身につけたうえで研究に臨むことは非常に有意義なことだろうと思います。
ただ、難点としては、概念の定義をあつかう内容ということで、おそらく言葉遣いをなるべく原語のままにしたかったのでしょう、翻訳がかなり難解でした。ほぼ直訳のような文章でしたのでそのままでは理解しにくく、むしろ頭の中でもう一度英語になおしてみてようやく内容がわかるといった感じで、遅々として進まず読むのにかなり時間がかかりました。むしろ原書で読めばよかったと少々後悔。


Title  認知心理学の新しいかたち
Auther 編著)仲 真紀子 Year  2005
Publisher  ランダムハウス講談社
Contents 現実の問題への応用をめざした認知心理学的取り組みの数々を紹介。”法のシステムと認知”、”安全な社会と認知”、”個人の適応と認知”、”脳と認知”など。
Comments 「心理学の新しいかたち」シリーズの第5巻。
各章ごとに、”法”や”安全”など現実の問題をみすえた実証研究をそれぞれの一線の研究者が紹介します。認知心理学というと基礎研究が主流のようなイメージがありますが、このようなかたちで現場に貢献していく試みでも多くの成果があがっているのは素晴らしいことです。「基礎と応用をつなぐ」ということは、心理学のすべての領域で叫ばれていることでしょうが、この本は認知心理の領域でその理想をうまく体現しているといえるでしょう。特に面白いと思ったのは第1章「法廷でのコミュニケーション」、第3章「エラーはいかにして見逃されるか」。


Title  考える脳 考えるコンピューター
Auther 著)ジェフ・ホーキンス
  サンドラ・ブレイクスリー
Year  2005
Publisher  ランダムハウス講談社
Contents 大脳新皮質の神経構造からいかにして”知能”が生じるか。コンピューターは”脳”になれるのか。人工知能の将来とは。
Comments 著者のホーキンスは、自ら設立したPC会社の取締役兼最高技術責任者であり、手のひらサイズPC"Palm"の生みの親なのだそうです。かつ、自ら資産を投じて神経科学研究所を設立してしまったという、とんでもない人物。「自分の好きな研究がしたいから、まずビジネスで稼いで、自分の研究所をつくってしまおう」という何ともアメリカンな発想。紆余曲折や苦労を経つつも、ひたすら好奇心と興味のままに”脳”を追求してきた人生を自ら語る初めの数章は、読んでいて勇気を与えられます。こういう偉業をなしとげた人物にかぎって特によくあることですが、非常にあっさりと、楽しそうに人生を語る姿がとても好感が持てます。脳科学に興味がなくとも、ビジネスで成功したい人にも読んで欲しい本。
さて問題の”脳の機能”にかんする彼の理論ですが、大脳新皮質でパターン認識・記憶・推論がいかに可能かを、非常にシンプルに理論立てています。(彼の理論がどこまで実証されているのかは、ここでは記述されていません。)余分なことを切り捨てた単純明快な発想は、エレガントで納得のいくものです。まず、脳の構造がいかに単純であるかを説明した後に、それがどうやって複雑な処理を行えるのかを、神経構造レベルで説明します。ここで、PCやニューラルネットワークモデルとの比較がふんだんに取り入れられるところに、著者のPC技術者としての視点が生かされています。”知能”の仕組みを”記憶と推測”としたのはさほど目新しくありませんが、大脳新皮質の機能ときれいに対応づけたところに説得力があります。”意識””創造性”についての考察は、今のところ一見してあまりにシンプルすぎる感もありますが、この人がこれらの問題に本気で取り組み始めたらまたもう一冊面白い本が書けるのではないでしょうか。すごい人物に出会いました。


Title  脳のなかの幽霊、ふたたび
 見えてきた心のしくみ
Auther 著)V.S.ラマチャンドラン
Year  2005
Publisher  角川書店
Contents 著者がイギリスで行った連続講演の内容を本に書き起こしたもの。神経科学の視点から、幻肢・共感覚などの症状にはじまり、「美」や「クオリア」などの哲学的問題にも取り組む。
Comments 前書「脳のなかの幽霊」がとても面白かったので、本書はその後の研究発展を紹介してくれるのだろうかと非常に期待していたのですが・・・一般向けの講演内容のまとめ直しということで、前書の一部をごく簡潔に紹介するような内容がほとんどで、少々期待はずれでした。症例を注意深く観察しながら、その原因を洞察し、実験によって確かめ、そこから人間の精神活動について何がわかるかについて大きな理論を組み立てる過程をじっくりと見せてくれるのが前書の面白いところだったのですが、講演の時間的制約もあってか今回はかいつまんだ話ばかりになってしまい、読者としては「そういう話もあったねぇ」と思い出すのみに留まってしまいました。復習としては良かったかもしれません。


Title  エモーショナル・デザイン
 微笑を誘うモノたちのために
Auther 著)ドナルド・A・ノーマン
訳)岡本明ら
Year  2004
Publisher  新曜社
Contents 人間の認知と情動の科学的理解が、製品のデザインにどのような影響を与えるか。
Comments ”良いデザイン”とは何か。著者は、ある製品が成功を収めるためには、実用的要素よりもむしろ情動的な要素の方が大きく関わっていると主張します。著者によれば、デザインの情動的側面には以下の3つのレベルがあります。本能レベル(見ための快さ、美しさ)・行動レベル(使いやすさによる効率と喜び)・内省レベル(使う者の自己イメージの充足感)。それぞれが、脳機能のうち、自動的で生来的な本能レベル・日常的な手続きを無意識に制御する行動レベル・熟慮的処理をする内省レベルに対応しているわけです。この理論についてはあまり詳しく触れられないのですが、これまでの認知や情動の知見に沿った議論で、あまり新しい印象はありませんでした。豊富な製品開発を例にあげながら理論の適用・実践を説明するところも、読み物としてはなかなか面白いのです。ユニークなデザインのモノたちのかわいいこと(笑)。しかし特に私が興味をもったのは”情動をもつ機械を開発する”という部分です。感情は、人間であれ機械であれ、自律的に行動するものにとっては、自らを守り、より良い解法を見つけ、効率を高めるために必要不可欠なものです。ですから、「いかにして賢く自律的に行動するロボットを作れるか」という視点から捉えなおしてみることによって、感情・情動のメカニズムやその機能について、また改めて理解を深めることができると思うのです。
実践に傾いた本かと思いきや、意外と考えさせられるところもある興味深い本でした。


Title  マインド・タイム
 脳と意識の時間
Auther 著)ベンジャミン・リベット
訳)下條信輔
Year  2005
Publisher  岩波書店
Contents 「意図」にかかわる神経活動と、その主観的経験との間の時間的関係について。実証研究を紹介した後、意識や自由意志の問題にも切り込む。
Comments 人が意図を持って行動をおこすとき、実際の行為開始の500ms前、そして本人が自らの意思決定を意識するよりも350msも早く、すでに脳内では準備電位が発生している。つまり、実は自分が自発的に意志決定した(と気づく)とき、その行動に向けてとっくに無意識的過程が始動してしまっているのです。
神経活動発生からアウェアネスが生じるまでに時間的ギャップがあるという話はもっともだと思いますし、そのシステムの説明とデータも納得できるものでした。面白いところは、「では自由意志は存在するのか」という問題です。本書の中にも取り上げられていますが、Wegnerのように「自由意志などは幻想にすぎない」と言うこともできるでしょう。しかし、著者はこう反論します。「人は行動が開始する150ms前に、その意図に気づくことができる。その間に行為を”中止する”という意志決定は可能なはずだ」。しかしここでは”可能性がある”としか言うことができず、結局”中止”の意志決定にも無意識的プロセスが先行してしまっている可能性を否定しきれないのが決定的な弱みです。自由意志を否定する側と、限定的ながらもその存在を救い出そうとする側と、その論争にはまだ決着はつけられない状況と言えるでしょう。私は後者に賛同する立場です。私たちが意識を備えるように進化してきたということは、意識が何らかの貢献をしているはずです。それが、無意識プロセスから生じる行動に最終的な調整を加えるという役割ではないかと思うのです。
ただし、単一の意識がいかにして生じるか?という問題について著者が最後に提案する”意識を伴う精神場”理論は、なんとも不可思議・・・。夢物語のような話なのですが、これを本気で実証してくるのでしょうか。今後の展開に期待。


Title  マインズ・アイ
 コンピュータ時代の心と私
Auther 編著)D.R.ホフスタッター
    D.C.デネット
 訳)坂本百大
Year  1992
Publisher 阪急コミュニケーションズ
Contents 心とは、自己意識とは何か。脳を理解すれば心がわかるのか。魂とは。これらの問題に対し、哲学・心理学・神経科学などの視点から各著者がユニークな議論を展開。
Comments 「心」の問題全般に興味のある人や、これから心理学を学びはじめようとする学生に、じっくりと時間をかけて読んでみてもらいたい本。各章において様々な問題を提起し、それに詳細な分析を加え、そこからどのような結論を導くか、果たして導けるのかどうかと読者に挑みかけるような構成になっています。難解な問題にがっぷりと取り組んでおり、ひとつの章を読み終わるたびに「うーん」と頭をかかえそうになるものの、同時にエンターテイメント性も高いという希少な一冊です。原著の初刷りは1981年というからすでに四半世紀が経過していることになりますが、ほとんど色褪せた感はありません。つまり、「心・脳・自意識」といったトピックにおいて、当時から重視されてきた問題の解明は(劇的な進展をとげてきたものの)いまだ完全には解決されていないということを意味しているのではないでしょうか。特に、哲学的アプローチが主になっているので、日頃は心理学や脳神経科学などから「意識」や「自己」について学んでいる私にとっては、なかなか難解なところもありながら新しい視点から問題をとらえ直すことができ、非常に新鮮に感じました。 ちなみに個人的に気に入ったのは、ホフスタッターによるアキレスやカメ等の登場人物が思考実験を繰り返すシナリオ調の章。謎が分解され何かその先が見えそうな予感がしながら、やはり最後まで解けない。うーん。


Title  自分を知り、自分を変える
 適応的無意識の心理学
Auther 著)ティモシー・ウィルソン
監訳)村田 光二
Year  2005
Publisher  新曜社
Contents 人間は、生存に必要な”適応的無意識”を備えている。このシステムは非常に強力で効率的であるが、しかしその働きに人は無自覚である。どうしたら”自らを知り、自らを変える”ことができるのか。
Comments 無意識に関する近年の研究の総まとめとも言えるほど、私がここ数年の間に読んできた論文がそこかしこに取り上げられていました。実証研究をふんだんに取り上げながらも、温かい語り口のストーリーの中に自然にその研究例を取り入れているので非常に読みやすく、初学者にもお勧めできそうです。本書のユニークなところは、人がどこまで無意識的に物事を処理できているのか、それを正しく自覚するのがいかに難しいことなのかを述べるにとどまらず、「では、どうしたら知ることが出来るか?どうしたら自分を変えることができるのか?」という問題にまで踏み込んでいる点だと思います。実はこのあたり、それほど新しい研究を引用しているわけでもないのですが・・・。とはいえ、昨今”自己啓発書”なるものがもてはやされているようですが、同じく「自分を知りたい、自分を変えたい」と願うのであれば、是非こちらの本の方を、一般の人々にも読んでいただきたいと切に願う次第です。


Title  脳のなかの幽霊
Auther 著)V.S.ラマチャンドラン
 サンドラ・ブレイクスリー
Year  1999
Publisher  角川書店
Contents 神経学者の著者が、幻肢や疾病失認といった患者の観察・実験・治療を通じて、脳の仕組みについて解明されたことを紹介し、さらに新しい仮説を提案する。
Comments 無くした手足の存在を「感じて」しまう患者や、両親を「偽物だ」と主張しつづける患者など、そしてそれらの症状が生じるメカニズムについて読み進めるにつれて、私たちが「現実」と思っているものは何なのか、意識とは何なのかという問題が浮き彫りになってきます。そして、私たちが世界や私たち自身について「現実」として知覚していることが、非常に微妙なバランスの上に成り立っている、巧妙に作り上げられた「主観的な感覚」であることを実感させられます。そのような主観的な現実感を作り出す脳のメカニズムをさぐる著者の方法がユニーク。大げさな装置などは全く使わず、身近なもの(鏡・テーブル・毛布!)を使って、脳を「だます」ことにより、そこにどのような仕組みが潜んでいるかを明らかにします。その簡潔さとクリアさは、心理実験のお手本にもしたいところです。勉強になりました。解明済みのことばかりではなく、まだ検証されてはいない著者の仮説も多数挙げられており、それぞれのアイディアについて吟味・批判を加えながら読み進められるのも、他の科学書とはひと味ちがった面白みを加えています。さらに著者には文才もあるようで、ユーモアに富んだ語り口で読み物としても充分面白い本なので、予備知識を持たない方にもおすすめです。


Title  恋人選びの心
 性淘汰と人間性の進化
Auther 著)ジェフリー・F・ミラー
訳)長谷川眞理子
Year  2002
Publisher  岩波書店
Contents 人間はなぜ、芸術・スポーツ・道徳性・豊富な語彙といったものを生み出してきたのか。この問題について、性淘汰による解明を試みている。
Comments 芸術もスポーツも、いわゆる「生存」のためには役に立たないものなのに、人々はこれらを愛し、たしなんでいます。道徳性も、あまりに利他的になりすぎることは自らを滅ぼしかねないのに、美徳として世界あまねく尊ばれています。語彙も、効率的な情報伝達に必要な量以上にたくさんありすぎます。つまり、「文化」と総称されているこれらのものは無駄だらけで、自然淘汰的には”不適応”です。なぜそんなものを人が身につけてきたのか、言い換えれば、そんなものを進化させてきたのか、という問いに対する著者の答えは・・・「モテるから」。(ただしそれを本人が意図している必要はなく、むしろしていない、というのが大切なところ。著者は、このような解釈をしたからといって、文化の尊さは全く損なわれないということをそこかしこで強調しています。)
無駄なことをしているというのは、裏を返せば、それを可能にさせるだけ健康で良い遺伝子を持っている、すなわち適応度が高いということを意味します。すなわち、配偶者選択のときに適応度指標としての役割を果たします。著者は基本的にこのロジックにのっとって、芸術・音楽・慈善・語彙といったものが進化してきた理由をひとつひとつ弁証していきます。大枠では非常に納得のいく議論でした。ただし、部分的に腑に落ちないところも。言語の進化に関する議論では、情報伝達という実用的利点だけでは説明しきれないところがあり、配偶者選択による淘汰圧があったと考えるのがもっともらしいというところまでは良いのですが、なぜ豊富な語彙が適応度指標となりえたのかという点についてははっきりと言明されていません。むしろ巧妙に避けている感もあります。そしてこの話題を最終章にもってきているところを見ると、おそらく著者がいまこの問題を検討している真っ最中なのかもしれません。また近々、新しい著書が出てくるのではないかと期待しています。


Title  木を見る西洋人 森を見る東洋人
 思考の違いはいかにして生まれるか
Auther 著)リチャード・E・ニスベット
訳)村本 由紀子
Year  2004
Publisher  ダイヤモンド社
Contents 東洋人と西洋人の思考スタイルがいかに異なっているか、なぜ異なっているのかを、歴史的・哲学的背景についての考察や実証研究の紹介を通じて解説。
Comments "Geography of Thought"という原題でベストセラーになった書の訳本。綿密で丁寧な訳し方で、読みやすい文章でした。ビジネスが急速に国際化している昨今、このような書が多くの人の興味をひきつけることは必須でしょうし、それにともなって文化心理学の研究成果が世に広まることは喜ばしいことだと思います。しかし「ここが違う」という指摘が主になっており、(一般向けの書としては限界があるのかもしれませんが)「なぜ違うのか」という点についてはもう一歩踏み込んだ考察が欲しかったようにも思います。文化差が生じた根源として「中国=農耕、ギリシア=交易」という古代の生態環境をあげ、そこから社会構造・注意・形而上学・認識論・認知プロセスまで全てに影響が及んだという説明ですが、この部分は数ページでさらりと触れるのみにとどまっており、少々物足りないものを感じました。また、影響源をひとつに定め、そこからすべての文化差が生じているという見方は、かなり「西洋的」思考に偏っているようにも感じられました。 また、噂話でしかありませんが、著者が発表した研究を他の研究者が追試しようとすると、同じ手続きを用いたとしてもなかなか同様の結果が得られないことがあるとか。つまりあまり安定した現象でないものも含まれているかもしれない、ということです。本書に限らずどんな学術書・学術論文を読むときにもあてはまる事ですが、"the truth is out there (not in articles)"という気持ちで、書いてあることすべてを鵜呑みにしないことが大切だと思います。


Title  言語を生みだす本能 (上)(下)
Auther 著)スティーブン・ピンカー
訳)椋田 直子
Year  1995
Publisher  日本放送出版協会
Contents 言語はいかにして獲得されるかについて、チョムスキーを超えた言語本能論を展開。
Comments まさに、目からウロコでした。この本できびしく指摘されているとおり、私も"一般的知識人"として「言語は、記号をあやつる高度な能力から生まれた文化的発明物であり、そして人間の思考を枠づけている」という先入観を持っていました。私にとって「あたりまえ」だったこの信念が、これほど鮮やかに覆されることになるとは・・・。
世界には多種多様な言語がありますが、すべての言語の根底になっている普遍的な心的言語が存在していること。 そして人は、文法の基本原理を生得的にそなえて生まれてくるということ。その基本原則を応用し、脅威的な効率の良さで言語を獲得していく幼児。こういったテーマについて、英語の文法や日常用法、さらに発達や遺伝といった幅広い切り口から説明していきます。ウィットに富んだ語り口にのせられて気持ちよく読んでいると、いつのまにか言語本能説の全体像がきれいにまとめ上げられているのです。
新たな知識を得る、そして今後の思考のために新しい視点を得るという刺激的な喜びを味わいました。


Title  感情の科学
 心理学は感情をどこまで理解できたか
Auther 著)ランドルフ・コーネリアス
訳)齋藤 勇
Year  1999
Publisher  誠信書房
Contents 感情に関する主要な4理論(ダーウィン説・ジェームズ説・認知説・社会的構築主義説)の視点を紹介・整理。
Comments 現代心理学における感情研究の各理論について、ここまで包括的にまとめている本にはじめて出会いました。歴史的流れも追ってあるので、先行する理論のどんなところに問題意識を持って新しい理論が発展してきたのか等、それぞれの理論の位置づけを理解するのに役立ちます。このような俯瞰的な視点をあたえてくれるという意味でありがたい本だと思います。社会心理学を学ぶ者として最もなじみがあるのは認知説なわけですが、ラザラスVSザイアンスの論争やマンドラーの説、オートリー&ジョンソン=レアードの説などを適度な詳細さで説明してくれているので、あらためて知識の追加・整理が出来ました。特にオートリー&ジョンソン=レアードについてはほとんど知識がなかったので助かりました、興味深い議論なので今後注目していきたいところです。逆に、社会構成主義的な観点はもっともなじみの薄いところ。著者が社会構成主義者ということもあって丁寧に説明してくれているのですが、考え方に慣れていないせいか、どうも腑に落ちない感覚が消えませんでした・・・。文化の中で各種のこまやかな質的差異のある感情概念が生み出されてきた事に対する説明としては、ある程度納得できるのですが。


Title  人はなぜ感じるのか?
Auther 著)ビクター・S・ジョンストン
訳)長谷川眞理子
Year  2001
Publisher  日経BP社
Contents 進化の過程で、いかにして感情が脳の働きの中に組み込まれるようになったかを解説。
Comments おそらく一般向けに書かれた本ですが、あなどれません。心理学を少しでもかじったことのある人間ならば必ず知っている「遺伝と環境」のごく基礎的な話からはじまるのですが、それを感情の進化の話にあてはめはじめる辺りから興味深い議論が展開されます。自然淘汰によってアフェクトが獲得されていくこと(外側の遺伝アルゴリズム)と、個体内での学習メカニズムにおいてアフェクトを利用した仮説の生成&淘汰が行われること(内側の遺伝アルゴリズム)を備えたモデルのシミュレーションはとても説得的。こんなシンプルな仮定しか置いていないモデルですが、このモデルの凄さは「非決定的であること」。ランダムな変異によって創造的な仮説を生成し、その帰結に応じて感情システムが将来の生存・繁殖可能性の度合いを増幅してフィードバックすることによって、効率的な学習がなされ急速に適応的方略が獲得されていきます。このような遺伝の基本原則とランダムな探索、そして正負を重みづけしてフィードバックするシステムを組み込むだけで、感情システムを備えた生物が進化していく過程をシミュレート出来てしまうわけです!凄まじいとしか言えません。囚人のジレンマゲームにおいて「感情を持ち進化するプログラムがTit for Tatに勝つ」という話まで読みすすめたときには、「そうだよ!こういう話が聞きたかったんだよ!」と感動のあまり涙目になってしまいました。・・・この感動も私の学習に役立ってくれているといいのですが。


Title  神経心理学コレクション:
 記憶の神経心理学
Auther  山鳥 重 Year  2002
Publisher  医学書院
Contents 記憶の現象学・生活記憶の障害・意味記憶の障害・手続き記憶の障害・生活記憶の神経解剖学的構造・記憶の心理構造
Comments 前半3分の2くらいを用いて、記憶障害の病態を丁寧に分類しています。症状の違いや各症例ごとの病巣などについて詳細に説明しており、なるほど不思議な症状があるものだと関心しきりでした。しかし、神経心理学の素養の足りない私にとっては、それ以上の面白さが正直なところいまひとつ解りにくかった・・・。それぞれの患者さんの脳のどのあたりに損傷が見られたかという記述のみでは、障害との関係性を自力で読み解くところまで至らないのです。脳の各部位の働きや他の部位との関係性についての説明は第5章に集約されていて、ここまでたどり着けば、記憶障害のしくみについて多少理解が深められるように思います。しかしこの内容もかなり短い章に集約されてしまっているので、私のような初学者にとっては理解が困難な部分もありました。うーん、まだ勉強が足りませんね、今後精進します。最終章の6章には著者の独自の視点が紹介されていて、興味深く読みました。


Title  社会的認知研究のパースペクティブ
  心と社会のインターフェース
Auther (編)岡 隆 Year  2004
Publisher  培風館
Contents 社会的認知の伝統とメタファ・社会的判断・社会的推論・印象形成・自己・感情・行動・動機づけ・ステレオタイプ・意志決定・言語・対人的影響・個人差・精神的不適応・神経基盤・文化・進化心理学
Comments 各章の著者が、それぞれの領域について大きなビジョンから議論を展開しており、とても楽しんで読むことができました。ひとつひとつの知見を紹介するばかりではなく、その領域における一連の研究の流れをつかむこと、そして現在まだ残されている欠点や今後答えなければならない問題について鋭く指摘しています。このような大きな枠組みから捉えることを学んでおくことは、自分の研究の位置づけや意義を考える上でも非常に役に立つと思います。また、いわゆる社会的認知らしい研究のみにとどまらず、幅の広い領域との関連についても論じてあるのが特徴。文化心理学や神経心理学・進化心理学といった領域において社会的認知の知見がどのように生かされているか、そしてそれらの領域の考え方を社会的認知研究にどのように取り入れていくことが出来るか。このような広い視野を持つことによって、新しい研究アイディアが触発されたり、他領域と一貫性を持つように理論づけを固めていったりできるのではないでしょうか。視野を広げていくための出発点となってくれる良書だと思います。


Title  進化と人間行動
Auther  長谷川 寿一
 長谷川 眞理子
Year  2000
Publisher  東京大学出版会
Contents 進化の概念・遺伝子と行動・ヒトの進化・血縁淘汰・協力行動の進化・性淘汰・ヒトの配偶行動 etc.
Comments 「進化」という考え方の基本を学び、その視点から人間の行動をどのように読み解くことができるかを解説する本。はじめの数章を割いて「進化」という概念について丁寧に説明しており、何を進化と考えるべきで、何が進化では無いのかという整理がなされています。進化心理学は比較的新しい領域であるせいか、多くの誤解や批判がつきまといがちであることは否めません。私自身は進化心理学に賛同する派ですが、しばしば疑問や批判(「単なるストーリーにすぎず検証が不可能だ」など)を耳にすることがあります。筆者らはこれらの批判をひとつひとつ取り上げて各所で反論しており、その議論の仕方は勉強になりました。この本は東大の教養学部1・2年生向けの授業の教科書として書かれたものだそうです。心理学を学ぶ上で「進化」という視点を持つことは解釈や発想の幅を広めますから、心理関係に進学したい学生さんにはぜひ受講してもらいたいところ。


Title  認知の社会心理学
  ニューセンチュリー社会心理学 3
Auther (編)大島 尚
   北村 英哉
Year  2004
Publisher  北樹出版
Contents 認知的表象・自己と認知・自動性と統制性・潜在的認知・対人認知・ステレオタイプ・感情・態度・日常認知・社会的認知と進化
Comments 社会的認知の入門テキスト。各章がコンパクトにまとまっていて読みやすいので、初学者向けの教科書として良く出来ていると思います。新しめのトピックや研究例を多数紹介しているのが特徴。個人的には、「自動性とコントロール過程」「潜在的認知」をそれぞれ一章ずつ取り上げてくれているのが嬉しいところ。最後の章で進化心理学について触れてあるところも、粋な感じです。ベーシックな理論も紹介していますが、やや手短な説明になっているので、これを読んだ後により専門色の強いテキストに取り組むとちょうど良いのでは。


Title 無意識の脳・自己意識の脳 −身体と情動と感情の神秘
Auther (著)アントニオ・R・ダマシオ
(訳)田中三彦
Year  2003
Publisher  講談社
Contents 脳と身体の相互作用から「意識」がいかにして生じるかについての仮説と、意識障害の事例研究や脳神経学にもとづいた検証。
Comments 前著「生存する脳」から発展した形で議論がすすめられていくので、そちらを先に読んでおいてからこの本に取りかかるのがオススメ。「有機体(つまり認識する主体)」と「対象」それぞれの認識、そしてその関係性の認識という視点から、意識の仕組みとその適応的意義について議論されている。進化的に獲得されてきた適応システムという捉え方は、かなり納得のいく説明になっていると思う。特に、情動がいかにして認識されるか、それがどんな適応的意味を持つのかという議論が興味深い。しかし、前著に続いてあいかわらずの訳の読みづらさと邦題の違和感はどうにかならないものか・・・。(ちなみに原題は"The Feeling of What Happens: Body and Emotion in the Making of Consciousness")


Title  生存する脳 −心と脳と身体の神秘−
Auther (著)アントニオ・R・ダマシオ
(訳)田中三彦
Year  2000
Publisher  講談社
Contents 脳のある部分(前頭前・腹内側領域)の損傷による推論・意志決定障害の症例を紹介。それらの症例にもとづいた、ソマティック・マーカー仮説の提案・検証。
Comments 作者は神経科医であり、脳障害をもつ患者を多数診てきた経験から、このソマティック・マーカー仮説を導いたとのこと。紹介される症例の興味深さもさることながら、そこからの洞察と、論理の組み立てが見事。精神活動には脳と身体の相互作用が不可欠であるという主張には、賛同できます。特に、ソマティック・マーカー仮説について、注意・意志決定・推論などに関する心理学の知見とも一貫性のある議論がなされているところ、非常に興味深く読みました。たとえばトバースキー&カーネマンの「限られた合理性」に関しても、その神経学的基盤の説明を提供できるという点など、魅力的です。ただし、おそらく翻訳の仕方の問題で、文章が読みづらかったのが唯一の難点。


Title  ライブラリ 脳の世紀:心のメカニズムを探る7
 記憶と脳 −過去・現在・未来をつなぐ脳のメカニズム−
Auther (編)久保田 競 
(著)松波 謙一
   船橋 新太郎
   櫻井 芳雄
Year  2002
Publisher  サイエンス社
Contents 記憶と学習の分子的基盤・運動の記憶・前頭葉とワーキングメモリー・海馬と記憶
Comments 第一部「運動の記憶」では、聞き慣れない物質名や神経回路の呼称が頻出し、生理学的な素養のない私は理解に手こずりました・・・。前頭葉とワーキングメモリー・海馬と記憶の話には多少なじみがあったため興味深く読むことができ、インスパイアされる話も多々ありました。船橋先生による、ワーキングメモリーの定義に関する整理は説得力があります。また海馬体のニューロン集団による情報コーディング(セル・アセンブリ)は、PDPモデルにも直結する知見で、今後の進展が非常に期待されます。3人の著者が主に自らの研究分野について語っているため、最新の知見など紹介されているのは嬉しいことですが、低次から高次までの様々な記憶活動をすべて網羅しているわけではありません。個人的には、もっと「想起」(特にエピソード記憶の検索など)についても取り上げてほしいところ。


Title  ライブラリ 脳の世紀:心のメカニズムを探る1
 脳科学への招待 −神経回路網の仕組みを解き明かす−
Auther  松村 道一 Year  2002
Publisher  サイエンス社
Contents 中枢神経系の構造・ニューロンと神経情報伝達・神経回路網の情報処理機能・脳研究のメソドロジー etc.
Comments 脳の勉強を始めたかったので、適当な入門書を探していて出会ったのがコレ。手頃なサイズで読みやすく、図表も豊富で効果的。いかに脳内で情報伝達が行われるかについて丁寧に解説してあります。脳に関する知識も身につきますが、情報伝達の仕組みは感嘆するほど巧妙に出来ており、ロジックとしても刺激的な内容。特に、ニューロンレベルでの促進系・抑制系の仕組みは興味深いですね。シリーズになっており、この巻は基礎の解説とシリーズ全体の概観になっています。他12巻は各論になっているので、興味のある領域については今後また読み進めていくつもりです。


Title  進化ゲームとその展開
Auther  佐伯 胖
 亀田 達也 (編著)
Year  2002
Publisher  共立出版
Contents ゲーム理論の基本から、行動生態学・社会心理学・発達心理学・倫理学・疫学など各領域における進化ゲームを用いたトピックス
Comments 基礎知識が無くてもすんなり理解して読み進められる構成。進化ゲームの考え方はいたってシンプル、「進化的に安定な戦略とは何か?」という視点から幅広い現象を解き明かしにかかります。この作業が非常に魅力的。長谷川真理子・平石界など個人的にファンな先生方も各章を担当していらっしゃる他、普段あまり触れる機会のない倫理や昆虫・細菌などの話も結構面白く、読み応えのある本です。


Title  流れを読む心理学史 −世界と日本の心理学
Auther  サトウタツヤ
 高砂 美樹
Year  2003
Publisher  有斐閣
Contents 精神物理学や初期の実験心理学から、行動主義・ゲシュタルト心理学・精神分析など。心理学領域の拡大、日本の心理学史
Comments 心理学史と思って読むと、少々内容に偏りのある印象を受けました。「流れを読む」というのに期待したのですが、構成にはあまり斬新さを感じなかったような。日本の心理学史について丁寧にさらってあるところは興味深かったです。